生体医工学研究室(塚田研究室)

研 究

  • 生体医工学研究室(物理情報工学科 塚田研究室)は電気電子工学と光学を基盤として医療に応用する技術を研究しています.
  • 生命・生体機能の新たな知見を得るための独自の顕微光学系,腫瘍(がん)を検出するためのセンサ・デバイス,臨床応用を目指した光学システムを研究・開発しています.
  • 工学だけでなく医学,生物学など学問の領域を超えた “目的主導型” の研究を目指しています.

酸素代謝の超解像イメージング技術

 呼吸によって肺から血液に取り込まれた分子状酸素分子は拡散によって全身の細胞に運搬され,細胞内小器官であるミトコンドリアにおいて高エネルギーを獲得するために利用されます.この共有と消費のバランスによって形成される生体内のガスの分布(濃度勾配)が生理機能を決定する因子であることが分かりつつありますが,ナノスケールの現象は未知な点が多く残されています.
 左の顕微鏡写真はマウスに移植した腫瘍ですが,その腫瘍の内部は著しい低酸素状態を呈し,酸素濃度は血管新生の形成や腫瘍の転移に関与することが知られています.しかし,そもそも生体の酸素濃度を非接触かつ絶対値で定量計測することは,技術的に容易ではありません.

 我々の研究室では,短パルスレーザ励起による酸素感受性色素の光化学反応を利用して非侵襲的に生体組織の酸素分圧を計測するための顕微システムを独自に構築しています.現在は,細胞内の局所の情報を得るための超解像顕微技術を取り入れることでナノスケールの現象を明らかにすることに取り組んでいます.酸素分圧の計測の他,腫瘍の血流や血管から漏出する物質を数値シミュレーションから予測し,実測によって妥当性を検証しています.腫瘍生物学に理工学からアプローチすることで,新たな知見を得ることを目標としています.
 これまでに放射線治療効果の増強を目指した腫瘍の酸素化の研究や,細胞内の酸素センサータンパクであるHIF-1αの機能解析に応用してきました.独自に構築したシステムをさらに改良することで,我々しか撮れない現象を描出していきます.

共同研究先: 川崎医科大学生理学1教室

  • Oda K., Iwamoto Y., Tsukada K., Simultaneous mapping of unevenly distributed tissue hypoxia and vessel permeability in tumor microenvironment, Biomedical Physics & Engineering Express, 2, 065017, 2016.
    https://doi.org/10.1088/2057-1976/aa5193
  • Yamada R., Tabuchi S., Tsukada, K., Optical scanning of tissue oxygen tension and hypoxia imaging in solid tumors, Advanced Biomedical Engineering, 3, 65-71, 2014.
    https://doi.org/10.14326/abe.3.65

MEMS型細胞培養デバイスで生体内の物質濃度勾配を再現する

 分子状酸素はミトコンドリアにおいて高エネルギー獲得システムに利用されるだけでなく,酸素濃度そのものが細胞・組織・臓器の機能を制御する重要な物理量であることが明らかになりつつあります.
 一般的な細胞培養は一様な環境・条件で培養できる利点がありますが,生体内の環境とは大きくかけ離れています.そこで,微細加工技術を用いたマイクロ流体デバイスで生体内の環境を再現する培養デバイスを開発しています.例えば,試験管レベルで腫瘍の環境を再現することを目的とし,培養層に血管内皮細胞のネットワークを形成し,そこに酸素勾配や腫瘍関連分子の濃度勾配を曝露する実験,また膵管-十二指腸の結合部におけるpH勾配と細菌動態の関係を数値シミュレーションと実測実験から明らかにしています.

 ガス透過性の高いポリマーを母材として用い,その中に酸素濃度を制御する機能を組み込むことで,細胞培養面における酸素勾配を線形,非線形的に自在に制御することができます.脳や肝臓といった実質臓器における生理的酸素勾配の再現だけでなく,例えば骨髄中の特殊なhypoxic nicheを人工的に再現することも可能になります.培養中の細胞は連続的に観察することも可能であり,適当なタイムポイントでサンプリングして細胞内の発現分子解析に用いるなど,細胞の新たなメカニズム解明に応用することを目指しています.

  • Shirai H., Ito C., Tsukada K., pH-taxis drives aerobic bacteria in duodenum to migrate into the pancreas with tumors, Scientific Reports, 12, 1783, 2022.
    https://doi.org/10.1038/s41598-022-05554-8
  • Yabuki Y., Iwamoto Y. and Tsukada K., Micro/nano particle-based oxygen sensing film for monitoring respiration of cells cultured in a microfluidic device, Japanese Journal of Applied Physics, 58, SDDK03, 2019. 
    https://doi.org/10.7567/1347-4065/ab049b
  • Sato A., Kadokura K., Uchida H., Tsukada K., An in vitro hepatic zonation model with a continuous oxygen gradient in a microdevice, Biochemical and Biophysical Research Communications, 453, 767-71, 2014.
    https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2014.10.017

光学式フレキシブルバイオセンサの開発

 パーソナル医療,オーダーメイド医療の普及に伴い,個人の生理情報を正確かつ簡便にモニタする需要が高まっています.生体は3次元的な曲面を有し,また動きを伴うために生体に柔軟に密着し,生理情報を連続的かつ非侵襲的にモニタする技術が求められています.例えば,体表では肘・膝関節,臓器では心臓のように時間的かつ多方向に延伸する部位へのセンサ貼付には,延伸方向に依存しない延伸や屈曲に耐性のあるセンサである必要があります.

 カーボンナノチューブを混合したジメチルポリシロキサン(PDMS)でLEDとフォトダイオードを結線し,生体に貼付できるパッチ型の酸素センサを作製し,生体計測から有効性を実証しています.現在は素子の小型薄膜化のために電極材料や形状を工夫して二次元イメージングセンサに発展させるための研究を続けています.

  • Katayama Y., Fujioka Y., Tsukada K., Development of a patch-type flexible oxygen partial pressure sensor, IEEE Journal of Translational Engineering in Health & Medicine, 8, 1400607, 2020.
    https://doi.org/10.1109/JTEHM.2020.3005477
  • Yabuki Y., Iwamoto Y. and Tsukada K., Micro/nano particle-based oxygen sensing film for monitoring respiration of cells cultured in a microfluidic device, Japanese Journal of Applied Physics, 58, SDDK03, 2019. 
    https://doi.org/10.7567/1347-4065/ab049b

光干渉を利用した卵巣機能の可視化装置の開発
  :小児・若年性腫瘍を対象にした次世代生殖医療に向けて

 悪性腫瘍に罹患した若年女性が抗がん剤治療後に卵巣毒性のため閉経に至るケースは少なくありません. しかし,採取した卵巣組織に含まれる卵胞密度は組織内で均一ではなないため,凍結保存する前に多くの卵胞が含まれる組織を安全かつ簡便に選別する技術が求められています.
 

 そこで,光学的に卵巣組織中に存在する卵子の密度を定量するために,3次元光コヒーレンストモグラフィ技術を新規に開発しています.ファントム実験・マウスモデル実験を経て最終的には臨床で迅速に組織内卵胞密度を定量できる装置を開発することを目指しています.  

 また,取得した卵巣画像に含まれる卵胞密度を成熟度別に定量するために機械学習を利用した画像処理法を提案しています.最終的には検出された卵胞の数と医師の診断から検出率と一致率を求めることで高い精度を実証します.

共同研究先: 聖マリアンナ医科大学 産婦人科学教室

  • Saito K., Motani Y., Takae S., Suzuki N., Tsukada K., Convolutional neural network-based automatic detection of follicle cells in ovarian tissue using optical coherence tomography, Biomedical Physics & Engineering Express, 6, 065026, 2020.
    https://doi.org/10.1088/2057-1976/abc3d4
  • Takae S., Tsukada K., Sato Y., Okamoto N., Kawahara T., Suzuki N., Accuracy and safety verification of ovarian reserve assessment technique for ovarian tissue transplantation using optical coherence tomography in mice ovary, Scientific Reports, 7, 43550, 2017. 
    https://doi.org/10.1038/srep43550

機能的ナノ粒子の作製:転移性腫瘍細胞を特異的に検出する技術

 一般的な臨床検査で発見できる腫瘍は,一つのがん細胞が時間をかけて増殖したものです.がん細胞の血管やリンパ管への遊走と遠隔転移は治療を難しくします.そこで,現在の検査法よりもさらに早期に腫瘍細胞や腫瘍関連分子を積極的に捉えるための機能的ナノ粒子を開発しています.
 左の図は磁性体ナノ粒子を金ナノ粒子でコーティングした機能性ナノ粒子です.外部磁場によって粒子を自在に移動させることができます.これらが目的分子や細胞を補足し,それを表面増強ラマン散乱光で高感度に検出する方法を研究しています.
また,マイクロ流体デバイスにナノ粒子を設置することで,微量なサンプルで簡便に検査が可能な流体システムの開発も行っています.

  • Shibusawa K., Hase T., Tsukada K., Increasing surface-enhanced Raman scattering density using gold-coated magnetic nanoparticles controlled via a magnetic field for sensitive and efficient biomarker detection, AIP Advances, 9, 065316, 2019.
    https://doi.org/10.1063/1.5102083
  • Hase T., Ishigaki S., Shibusawa K., Hamanaka S., Yabuki Y., Tamano Y., Tsukada K., Immobilized monolayer nanoparticles in a microfluidic device for surface enhanced Raman scattering measurement, Advanced Biomedical Engineering, 6, 122-128, 2017. 
    https://doi.org/10.14326/abe.6.122